「愛しい人-かなしいひと-」
「みーんな、死んじゃえばいいんだ。」
ぽつんと、僕の彼女がどこか遠くを見ながら言った。
「みんな、って。」
「あのね、ありとあらゆるすべてのもの。」
表情は、変わらなかった。
「生きてることっていうのはなんて残酷で厳しくて、辛いものなんだろうって思ったらね、
私は死んじゃえばいいんだ、って思ったの。
でも、一人じゃ寂しいだろうし、だからといって誰かを一緒に連れて行きたいといったって、
その人にはその人の都合というものがあるでしょう。
だから、私が”にくい、死んじゃえ”って思ってる人も、愛しくてどうしようもない人も、
とにかく、今、ここで”今”を生きて、動いてる人もモノも、みんな死んで消えてなくなっちゃえばすっきりするのに、と思ったの。」
僕の彼女の言うことは、大抵の人が、聞いたら”なんだ、そりゃ。”と鼻で笑って一蹴してしまうような、
そんな話が多いと思う。
でも、僕はそんな彼女の一つ一つの感じたことを知るたび、
”ああ、なんて世界を素直に感じているのだろう、この女性(ひと)は。”
と、純粋に感心するのだった。
「・・・僕は」
「うん?」
「僕はどれに含まれているのかな。
”にくい、死んじゃえ”っていう人?”愛しくてどうしようもない”人?それともただ今を生きて動いている人?」
僕がじっと見つめると、彼女は首をかしげて大きな瞳をくるんと回してみせた。
彼女が、一つのことを、ただそれだけを他のことはシャットアウトした状態で、
考えることに集中するときのクセだった。
少しして、彼女はゆっくりと口をあけた。
「貴方が聞いていることはとても難しくて、複雑だけれど、答えは単純で明快なものであるね。」
彼女は、冗談めかして微笑んで見せた。
「もちろん」
「もちろん?」
「”愛しくて、どうしようもない人”、だよ。」
僕は嬉しくて、ただただ笑っていた。
End
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